NPO法人不動産トラブル解決センターの田中です。
今回は、不動産投資の営業で最も多いセールストークのひとつ、「マンション経営で節税できる」の真実と誤解についてお話しします。
「節税になりますよ」は最も多い営業トーク
「マンションを持てば節税になります」「確定申告で所得税が還付されますよ」——当センターへの相談でも、購入のきっかけとして最も多く聞かれるのが、この「節税」トークです。
確かに、不動産投資には一定の節税効果があるのは事実です。しかし、その仕組みを正しく理解せずに「節税できるから」という理由だけで購入すると、想定外の損失を被ることになりかねません。
「節税になると聞いて買ったのに、実際にはほとんど効果がなかった」「節税どころか毎月赤字で持ち出しが続いている」——こうしたご相談が後を絶ちません。
※不動産投資トラブルの全体像については「不動産投資の失敗|トラブル・詐欺の実態と対処法【2026年完全ガイド】」をご覧ください。
そもそも不動産投資の「節税」とは何か
不動産投資で言われる「節税」の仕組みは、主に減価償却費を活用したものです。簡単に説明しましょう。
減価償却費のメカニズム
建物は年数が経つにつれて価値が下がります。この「価値の減少分」を経費として計上できるのが減価償却です。実際にお金が出ていくわけではないのに経費にできるため、帳簿上は赤字になり、給与所得と損益通算することで所得税・住民税が減るという仕組みです。
たとえば、年収700万円の会社員が不動産所得で帳簿上100万円の赤字を計上すると、課税対象の所得が600万円に下がり、その分の税金が還付されます。
初年度は諸費用も経費にできる
物件購入の初年度は、仲介手数料・登記費用・不動産取得税などの諸費用も経費計上できるため、特に大きな赤字が出やすく、節税効果が高く見えます。営業マンはこの初年度の数字を強調して「これだけ戻ってきます」とアピールすることが多いのです。
誤解①:節税効果はずっと続く
最も多い誤解がこれです。節税効果が大きいのは基本的に最初の数年間だけです。
初年度は諸費用の経費計上で大きな赤字が出ますが、2年目以降はこれがなくなります。また、減価償却費も建物の耐用年数に応じて毎年一定額を計上していくため、年収が変わらなければ節税効果は年々小さくなっていきます。
RC造のマンション(耐用年数47年)の場合、年間の減価償却費は建物価格の約2.1%です。2,000万円の建物部分であれば年間約42万円。この金額による節税効果は、年収700万円の方でせいぜい年間8〜12万円程度です。
一方、毎月の持ち出し(ローン返済額と家賃収入の差額)が2万円あれば年間24万円の赤字。節税で取り戻せる金額よりも、実際の持ち出しの方が大きいというケースは非常に多いのです。フルローンでの収支の実態については「不動産投資の自己資金ゼロはなぜ危険?」もあわせてご確認ください。
誤解②:赤字=節税だからお得
「帳簿上赤字にすれば節税になる」——これは仕組みとしては正しいのですが、「赤字であること自体がお得」というわけではありません。
帳簿上の赤字と実際のキャッシュフローの赤字は別物です。減価償却費は実際のお金の支出を伴わないため、帳簿上は赤字でもキャッシュフローはプラスということもあり得ます。しかし、多くのフルローン購入者の場合は帳簿上もキャッシュフローもどちらも赤字という状態です。
たとえるなら、「100万円損して30万円の税金が戻る」という話です。差し引き70万円のマイナスであることに変わりはありません。「節税」という言葉に惑わされず、実際のキャッシュフローで判断することが重要です。
誤解③:高年収の人ほど節税メリットが大きい
「年収が高い人ほど税率が高いから、節税効果も大きい」——これも一面的な理解です。
確かに、所得税は累進課税なので高年収の方が税率は高くなります。しかし、ワンルームマンション1戸で生み出せる帳簿上の赤字には限度があります。年収2,000万円の方がワンルーム1戸で得られる節税効果は、年収に対して微々たるものです。
本当に大きな節税効果を狙うなら、1棟物件や築古の木造アパートなど、減価償却費を短期間で大きく取れるスキームが必要です。しかし、これらはワンルームマンション投資とはまったく別の投資であり、相応の知識とリスク管理が求められます。
誤解④:売却時の税金を考慮していない
不動産投資の営業では、購入時の節税効果は強調しても、売却時の税金についてはほとんど説明されないことが多いのが実態です。
減価償却で建物の帳簿価額は年々下がっていきます。売却時の譲渡所得は「売却価格 −(取得費 − 減価償却累計額)− 譲渡費用」で計算されるため、減価償却を行った分だけ、売却時の課税対象額が増えるのです。
つまり、保有期間中に節税した分は、売却時にまとめて課税されるイメージです。さらに、所有期間が5年以下の場合は短期譲渡所得として約39%の高い税率が適用されます。確定申告の注意点については「不動産投資の確定申告で失敗しない5つの注意点」もあわせてご確認ください。
誤解⑤:節税目的の不動産投資は「投資」として成立する
そもそもの問題として、「節税」を主目的にした不動産投資は、投資として成立しにくいという点を押さえておく必要があります。
健全な不動産投資とは、家賃収入によるインカムゲイン、または売却によるキャピタルゲインで利益を得ることが目的です。節税はあくまで「副次的なメリット」であるべきです。
節税効果を前面に出して販売される物件は、投資としての収益性が低いからこそ「節税」で魅力を補っているケースが少なくありません。利回りの本質を理解するためには「ワンルームマンション投資の実質利回り計算方法」もぜひ参考にしてください。
営業トークに潜む落とし穴チェックリスト
不動産投資の営業で「節税」を強調された場合は、以下のポイントを確認してください。
- 提示されている節税シミュレーションは初年度だけではないか?
- 2年目以降・5年後・10年後の節税効果も試算されているか?
- 帳簿上の赤字だけでなく、実際のキャッシュフローも計算されているか?
- 売却時の譲渡所得税は考慮されているか?
- 減価償却の「期限切れ」後の収支はどうなるか?
- 節税効果を差し引いても、投資として利益が出る物件か?
これらの質問に営業マンが明確に答えられない場合は、その物件の購入は見送った方が賢明です。
まとめ:「節税」に惑わされず、投資の本質を見極める
マンション経営における節税効果は確かに存在しますが、営業トークで語られるほどの大きなメリットであることは少なく、多くの場合持ち出しの方が節税額を上回ります。
不動産投資を検討する際に最も重要なのは、「節税できるかどうか」ではなく「投資としてキャッシュフローがプラスになるかどうか」です。
すでに「節税になると聞いて購入したが、実態と違った」という方は、現状の収支を正確に把握し、今後の選択肢を整理することが第一歩です。今後どうすべきか悩んでいる方は「不動産投資をやめたい人が今すぐ取るべき5つの行動」も参考にしてください。
「節税目的で買ったけど…」とお悩みの方へ
NPO法人不動産トラブル解決センターでは、節税目的で購入した不動産に関するお悩みについて無料でご相談をお受けしています。「思ったほど節税にならない」「毎月の持ち出しが苦しい」「売却すべきか迷っている」など、おひとりで抱え込まず、まずはお気軽にご相談ください。